【自作小説です。読んでみてください。】
私には命の恩人がいる。
信号無視の車にひかれそうになっていたのを助けてくれた人。
その人は私の代わりに事故にあった。
私がちゃんと車に気づいていれば事故に遭うことは無かったのに……。
私は自分の耳を恨んだ。
私の代わりに事故に遭った人は聞けば同い年だとか。
中学でバレーボール部に所属しエースだったらしい。
そんな人の一生を台なしにしてしまった。
責任を感じて私の両親は助けてくれた人に治療費を払い続けている。
助けてくれた人の両親は、自分でやった事。
自分の命と引き換えにした事だから治療費は受け取れない。
そう言ったそう。
だけど私の両親の気が許さず、今でも事故関連で病院に行くときは治療費を払っている。
私は助けてくれた人を鮮明に覚えている。
格別イケメンではないけれど頭が良さそうで、童顔な感じだ。
またどこかで会えたらいいな。
あれから約2年。
高校生になる。
私は耳の不安が少しあったけど、バリアフリーが完璧で近代的な作り、そして中学の成績が中間くらいの人がいる普通高校に進学した。
入学式の日、トップの成績で入学するコが文章を読み上げる。
よく見ると車イスに乗っていた。
後ろ姿があの人に見えた。
やっぱり違うかな…。
そんなことを考えていたら式が終わり、担任発表とクラス発表のプリントが配られた。
それからクラスに行くと、さっき文章を読んでいた人がいた。
なんだか皆関わりたく無いような感じで車イスの彼を避けていた。
私は紙に名前と出身中学を書いて見せた。
私は『よろしく』と言って握手を求めるとクラスメイトの視線が一気に集まった。
彼は「君、耳が不自由なんだね?僕は歩けないのさ。ピクリともしない飾りの足さ。」と言ってきた。
驚きを隠せなかった。
私は『そう。耳が不自由なの。言葉聞き取れる?』
すると「僕は慣れてますから。」
慣れてる?その言葉がしっくりこなかったけど受け流した。
彼は「お。自己紹介遅れた。岡空だ。よろしく。」
そう言って握手をしてくれた。
私は失礼だと感じながら足の事を聞いてみた。
『足、生れつきですか?私の耳は生れつきです。』
すると、
「生れつきじゃないよ。人を助けたんだ。」
と、言ってきた。
私は、まさかあの人……。
私を助けてくれた人なのだろうか。
思い切って事故内容を聞いた。
すると、
「あれは部活帰りだったかな。ぼーっとしながら一人で歩いてた。そんなとき目の前の歩行者信号が青、横の車の信号は赤。なのに横から猛スピードで車が走ってきて、女の子をひきそうになっていた。僕は無我夢中で女の子を追いかけて突き飛ばした。女の子は多分擦り傷程度だったかな。僕は打ち所が悪かったら死んだらしい。奇跡的に打ち付けた箇所は死に至る場所ではなかったんだ。だけど首から下の感覚麻痺になった。今、手は使えるようになった。だけど時々痙攣や痺れはある。足は常に痺れている。呼吸も麻痺してて、長時間喋ったり激しい運動したりすると酸欠になる。」
『あの……。』
「ゴメン。こんな話聞きたくないよね。」
『いえ。多分突き飛ばされた人私です。』
「………。えっ。」
『私耳が悪いので声が聞こえなくて、だから…。』
「もういいんだ。お前、ちょっと放課後付き合え。」
『え、あ、うん。』
こうしてあの人と再び出会った。
放課後、呼ばれて付き合った。
待ち合わせた場所は大胆にも校門前。
思いっ切り目につきやすいのに何故……。
校門で待っていた彼は呼吸が乱れ、全身が痙攣していた。
私はビックリして
『大丈夫ですか?』体を揺さ振った。
彼は
「ああ。今の僕がこの程度なんだ。仕方ない。」
彼は車イスを漕いで行こうとするが手が振るえて出来ない。
私は自然に車イスを押した。
学校初日なのに何故か大切にしたい人だと思った。
彼は携帯を差し出して
「アドレス交換しよう。ダメか?」と言ってきた。
私は
『ああ。いいですよ。』と携帯を出した。
たわいもない会話をし、ふと気がつくと彼の家の前にいた。
「入れ。」
『いきなりなんで?』
「いいから。」
言われるままに入った。
完全なるバリアフリーの家。
何をたくらんでいるのだろう。
「ただいま。」
〔おかえりなさい。〕
「今日は連れがいる。」
〔誰?〕
彼の母親は私を見てビックリしていた。
彼を呼び出し、話しはじめた。
〔あのコ…。もしかして。〕
「ああ。偶然学校もクラスが一緒になった。」
「入れよ!あ、聞こえてないんだっけ…。」
玄関まで彼は来た。
「入れよ!お前に見せたいものがあるんだ。」
『分かった。』
トレーニング室みたいな場所に連れていかれ、いきなり彼は車イスから降りた。
『大丈夫なの?』
「見てろよ!」そう言い放つと、よくリハビリ室にあるような歩行訓練に使うバーに掴まり立ち上がった。
「どうだ?」いきなり言われて正直どうしたらいいか分からなかった。
「まだ掴まり立ちしか出来ないけどね。立つだけでこんなに激痛が走るなんて考えた事なかったな。」
『あのさ…。出会って初日に何で?』
「お前の事気づいてた。ここまで回復出来たと見せつけたかった。」
『ありがとう。私ね、何故話しかけたかと言うと気になってた。命の恩人じゃないかなって。本当だったときは何て言ったらいいか分からなかった。』
「僕さ、その時一目惚れした。また会えたんだって嬉しい気持ちだった。ちゃんと出会ってまだ初日だけど、上手くいったら付き合え。付き合ってくれ。」
『初めて告られた気がする。嬉しい。私もあなたでよかった。』
初日から変な感じがしていたけどまぁいいか。
それから高校生活で初めての夏休みを迎えた。
私は思い切って彼に言った。
『水族館に一緒に行かない?』
彼は言った。
「電車に乗るのか?」
私は当たり前のように思っていた。
「あの日以来電車には乗ってないんだ。歩けるようになったら乗ろうと決めていたんだ。だけどお前となら乗る。」
『ありがとう。』
何故今かというと4ヶ月記念日に水族館に行きたかったから。
実現した。
朝、彼の家に迎えに行った。
【ピンポン】
チャイムを鳴らすと彼が出て来た。
玄関に座っていた彼は「車イスを外に出しておいてくれ。」そう言った。
訳が分からないまま言われた通りに出す。
『大丈夫なの?』という私の心配をよそに
彼は「行ってきます!」と母に言う。
母が玄関まで来た。
〔行ってらっしゃい!〕
彼の母親この状況にはなにも触れない。
彼は母親に「もういいよ。ちょっとあっち行ってて。」そう言い放つと母親は行ってしまった。
私が手を貸そうとすると「見てろよ。」と彼が言った。
何が始まるのか予想がつかなかった。
左手にクラッチを持ち、右手を手摺りにかける。
物凄い声と同時に彼は立ち上がった。
何分もかけながら一歩を踏み出した。
多分玄関から車イスまで普通の人なら10秒くらいの距離だったけど、20分かかったかな。
歩いてたどり着いた。
嬉しかった。
彼に聞いた。
『どうしたの?』
彼は言った。
「記念日の為に頑張った。」
そう言うと彼の顔色が悪く青ざめていった。
酸素吸入をやってあげて元に戻った。
しばらくして彼は「早く行こう」と言ってきた。
私は自然と涙が溢れ出て来て泣いてしまった。
それから駅に行って水族館に行った。
遠出をすることは彼の体には負担がかかる事は分かっていた。
彼は楽しそうにしていた。
私も本当に楽しかった。
彼が突然「クラッチ貸せ」と言ってきた。
言われるがままに手渡すと両手に持って立ち上がった。
『なにやってるの!?』
「車イスどっかに置いて来い」
意味分からなかった。
結局歩行は危ないからやめてもらった。
楽しかった時間はあっという間で、帰路についた。
彼を家の前まで送ると、「僕らの恋はこれからだな。」
私はなんだかそんな気がした。
『うん。そうだね。』
そうさ。まだ始まったばかり………。
fin...
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